人々を魅了する海外金貨の世界
海外金貨とひと口にいっても、その成り立ちや目的はさまざまです。 この章では、世界で広く流通している金貨の例をもとに、海外金貨の基本的な情報や種類の違いについて、初めての方にもわかりやすく解説していきます。
世界で最も流通している金貨とは?
突然ですが、世界で最も流通している金貨は何だと思いますか?
その答えとしてよく挙げられるのが、カナダで発行されている「メイプルリーフ金貨」です。前章でも少しご紹介しましたが、この金貨は、1979年の発行開始以来、高い純度と国際的な信頼性を背景に、投資用金貨として世界各国で取引されてきました。
日本国内においてもメイプルリーフ金貨は高い知名度を持っています。金貨投資に触れていなくても「メイプルリーフ金貨の名前だけは知っている」という方もいれば、『カエデの葉のデザインの金貨』と言われれば「ああ、あの金貨か」と思い出す方もいるかもしれません。
実際に、当社へお買取のために持ち込まれる海外金貨を見ても、メイプルリーフ金貨が最も多くを占めています。
下のグラフは、2025年の1年間に当社がお買取した海外金貨を、種類別の割合で示したものです。内訳を見ると、メイプルリーフ金貨が約37%、次点でクルーガーランド金貨が約22%を占めており、この2銘柄だけで全体のおよそ6割に達しています。
2025年年間の海外金貨種類別持ち込み割合(こちら金貨買取本舗)
このデータはあくまで当社の持ち込み実績に基づくものですが、海外金貨の実際の流通量や認知度の高さをうかがううえでの、一つの参考指標といえるでしょう。
では、なぜメイプルリーフ金貨やクルーガーランド金貨が、これほど多く流通しているのでしょうか。その理由を理解するには、金貨が大きく二つのタイプに分けられることを知っておく必要があります。
金貨は大きく二つのタイプに分けられる
一つは、金そのものの価値を重視して設計された「地金型金貨(じがねがたきんか)」です。
地金型金貨は、金の重量と品位が明確に定められており、金価格と連動して価値が評価されることを前提としています。メイプルリーフ金貨やクルーガーランド金貨は、この地金型金貨の代表的な存在です。
デザインは比較的シンプルで、毎年大きく変わらないことが多く、収集目的よりも「金という資産を保有する手段」として広く利用されています。
これに対して、もう一つのタイプが「収集型金貨(しゅうしゅうがたきんか)」と呼ばれる金貨です。
収集型金貨は、金の素材価値に加えて、デザイン性や発行枚数の少なさ、テーマ性などが重視される金貨です。必ずしも金価格だけで価値が決まるわけではなく、コレクター需要によって評価が左右される点が特徴といえるでしょう。
集める楽しさを重視した「マン島キャット金貨」
収集型金貨の代表的な例として知られているのが、マン島で発行されていた「キャット金貨」です。
表面にはエリザベス2世の横顔の肖像、裏面には猫の姿がデザインされており、コインコレクターだけでなく、猫好きにもたまらない金貨となっています。

マン島は、イギリス本土とアイルランドの間に浮かぶ小さな島です。地図で見ると目立たない存在ですが、実はイギリス王室に属しながらも独自の自治権を持つ、少し特別な地域でもあります。
こうした立場から、マン島は独自のデザインによる記念貨幣やコレクター向けコインを数多く発行してきました。
では、なぜマン島は「猫」をモチーフにした金貨を発行したのでしょうか。
マン島が発行する金貨の多くは、投資用途よりもコレクター市場を意識して企画されたものです。中でもキャット金貨は、世界的に親しみのある「猫」をテーマにすることで、金貨に馴染みのない層にも関心を持ってもらうことを目的として誕生しました。
資産性だけでなく、眺める楽しさや集める喜びを大切にした金貨。それがマン島キャット金貨です。
マン島キャット金貨の大きな特徴は、毎年異なる猫が描かれている点にあります。シャムやペルシャ、ブリティッシュショートヘアなど、その年ごとに猫種が変わり、表情や毛並みまで丁寧に表現されています。
同じ「キャット金貨」であっても、年号が違えばまったく印象が異なる。こうした違いが、集めたくなる気持ちを生み出しています。
キャット金貨は25周年の節目となる2012年発行分を最後に発行が終了していますが、マン島ではキャット金貨以外にもハリーポッター金貨など、多彩なテーマの金貨が発行されています。
地金型と収集型の中間に位置する金貨もある
もっとも、海外金貨はすべてが明確に「地金型」か「収集型」に分かれるわけではありません。
中には、地金型金貨として発行されながらも、デザインの変化やシリーズ性によって、収集型としての側面をあわせ持つ金貨も存在します。代表的な例としては、中国のパンダ金貨や、オーストラリアのカンガルー金貨が挙げられます。
これらの金貨は、発行年によって図柄が異なるという特徴を持ち、投資目的で保有される一方で、特定の年のデザインを集めるコレクターも多く存在します。
このように、海外金貨には「金の価値を重視する地金型金貨」と、「デザインや希少性を楽しむ収集型金貨」という2つの性質があります。
当社への持ち込み実績で、メイプルリーフ金貨などの地金型金貨が多くを占めているのは、こうした金貨が世界的に広く流通し、資産として保有されている背景があるためと考えられます。
では、世界で発行されている地金型金貨には、どのようなものがあるのでしょうか。次からは海外金貨の中でも代表的な地金型金貨について、それぞれの成り立ちや特徴をご紹介します。
資産向け金貨の先駆け「クルーガーランド金貨」

皆さんは、1980年代に日本の投資家たちの間で金貨ブームが起こったことをご存じでしょうか。金貨ブームの中心となったのが「クルーガーランド金貨」です。これまでに約5000万枚が製造され、今では資産向け金貨の先駆け的存在として語り継がれています。
これだけ聞くと良い印象を持つかもしれませんが、この金貨には暗い過去もあるのです。その過去も含めて、クルーガーランド金貨をご紹介したいと思います。
クルーガーランド金貨は、南アフリカ共和国造幣局により1967年から発行され始めた金貨です。
当初は1オンスのみを発行していましたが、1980年からは10分の1オンス、4分の1オンス、2分の1オンスの量目も発行するようになりました。
デザインと名前の由来
表面にはトランスヴァール共和国(現在の南アフリカ共和国)の大統領だったポール・クルーガーの横顔が描かれています。
裏面には同国を象徴する動物、スプリングボックが描かれています。
このデザインは、同国で1982年から1990年に発行されていた1ポンド金貨がもとになっています。
クルーガーランド金貨の名前の由来は、金貨の表面に描かれているポール・クルーガーの姓「クルーガー(Kruger)」と、南アフリカの通貨単位「ランド(rand)」を組み合わせたものとなっています。
ちなみに、通貨名の「ランド(rand)」は、南アフリカ最大の金鉱脈地帯である「ウィットウォーターズランド(Witwatersrand)」に由来しており、「クルーガー+金鉱脈に由来する通貨単位」という構成で、南アフリカの金と歴史を象徴する名前なのがわかります。
ほかの金貨と異なる特徴
一般的に、地金型金貨の金品位は純金(24金)、純度99.99%以上を保証して発行されることが多いです。
なぜなら投資目的の地金型金貨においては、金貨の重量と金の純度が等しい24金のほうが資産の管理や計算が容易で、国際取引での信頼性と流通性が高いからといえます。
しかし、クルーガーランド金貨は、実は純金ではありません。
写真を見ると、この金貨の裏面には純金(金の含有率が99.9%以上であること)を意味する「FINE GOLD」が刻まれていますが、実際のところは、金が約91.7%、銅が約8.3%で生成された金貨なのです。
では、なぜ「FINE GOLD」と刻まれているのでしょうか。
その答えは、約91.7%の金が1オンス(約31.1グラム)だからです。
この金の重量に加えて、約8.3%の銅が混ぜられているため、実際の重さは約33.93グラムとなっています。
クルーガーランド金貨には銅が含まれている分、純金の金貨と比べて少し赤みがかっています。また、純金に比べると硬度があるため扱いやすいのも特筆すべき点です。
さらに、クルーガーランド金貨には額面が設定されていないという特徴もあります。
本章でご紹介するほかの資産向け金貨のすべてに額面が設定されていますが、クルーガーランド金貨には額面が刻まれていません。
主な理由は、金を販売する手段として発行され始めたからとのこと。
上記がクルーガーランド金貨の特徴ですが、面白い金貨だと思いませんか?
現在市場に出回っているクルーガーランド金貨の大半が中古品です。
その理由は、とある暗い過去に起因します。どのような過去があったのか、少し歴史を見てみましょう。
金貨ブームの中心にいたクルーガーランド金貨
クルーガーランド金貨が初めて発行されたのは、1967年7月3日です。
当時、南アフリカ共和国は世界一の金の産出量を誇っていました(2007年に中国にトップの座を奪われるまで)。
産出した金を販売する手段として、この金貨が発行されるようになりました。
そこから毎年発行されていましたが、当時の人々の金貨に対する認識は、「金を販売するための手段」や「催し物の記念に発行されるもの」といった具合で、資産として意識しているわけではありませんでした。
しかし、1978年から1980年ごろ、金貨に資産的価値が見いだされるようになります。そのきっかけは金の価格の高騰にありました。
当時は、イラン革命や第二次オイルショック、イラン・アメリカ大使館人質事件、ソ連のアフガニスタン侵攻など、世界規模のできごとがたびたび発生していました。
加えて、1980年には、イラン・イラク戦争が本格化し始め、世界情勢の不安定化につながりました。
世界情勢が不安定になると、多くの資産家は自分の資産を守るために金を購入するようになります。
結果、金の需要は高まり、もとは1グラム1300円ほど(年平均)だった金の価格が、4400円ほどにまで高騰しました。
ピーク時には1グラム約6900円にまで達していたと記録されています。
この金価格高騰の波を受けて、金を素材とする金貨に資産的価値が見いだされ、資産向けの金貨が流通し始めたのです。
当時、金貨市場の9割以上を占めていたのが、クルーガーランド金貨でした。これが、この金貨が資産向け金貨の先駆けといわれる所以です。
ちなみに、1980年からは1オンスだけでなく、金貨を少額でも買えるように10分の1オンス、4分の1オンス、2分の1オンスの量目も発行され始めました。
上記からも、このできごとがいかに大きな影響をもたらしたかがわかります。
実際、日本にも影響がありました。日本では、1972年に金の輸入が自由化されたことから、徐々に金貨を買う人が増加しました。
加えて、1980年代に大手地金業者が大々的に宣伝したことで、日本に数多くのクルーガーランド金貨が輸入されました。
当時、地方のテレビではクルーガーランド金貨のCMが流れていたこともあったため、読者の中にも覚えがある方がいらっしゃるかもしれません。
とあるできごとにより王座から転落
1980年代前半には世界で圧倒的な流通量を誇っていたクルーガーランド金貨。
しかしこのあと、南アフリカへの経済制裁が起こり、金貨も巻き込まれてしまうのです。
制裁のきっかけは、当国で推進されていたアパルトヘイトでした。アパルトヘイトとは、南アフリカが1948年から1990年代初めまで行っていた、法によって定められた人種隔離と差別のことです。
当国には黒人や白人などの多人種が暮らしていますが、すべての南アフリカ人を4つの「人種」に分類し、少数の白人による政権が住民の大多数である黒人を支配・搾取するシステムを築き上げていました。
非白人は冷遇されていましたが、ビジネスパートナーである日本人は「名誉白人」として扱われ、経済的な関係を深めてきました。
政策に対する反対運動が1980年代に入り加熱すると、1985年に南アフリカ政府が制圧を強化。これをきっかけに国連安全保障理事会が加盟国に南アフリカへの経済制裁を要請することになりました。
経済制裁の内容には、南アフリカからの輸入自粛が含まれており、クルーガーランド金貨も例外ではありませんでした。
欧米諸国が制裁として貿易を縮小する中、日本も国際社会からの批判を受け、南アフリカとの貿易を縮小することになります。
この間に、ほかの国々が資産向け金貨を発行し始め、クルーガーランド金貨は王座を奪われてしまいました。
これがクルーガーランド金貨の暗い過去です。
その後、アパルトヘイトは1994年に失効しましたが、クルーガーランド金貨は一時的に価値が下がりました。
現在では、大量流通から限定的な発行へと切り替えられ、通常の資産向け金貨として親しまれています。
世界一の流通量を誇る「メイプルリーフ金貨」

続いてご紹介する資産向け金貨は、「メイプルリーフ金貨」です。こちらは、カナダ王室造幣局により1979年から発行されている世界で最も流通量の多い金貨です。
「金貨といえばメイプルリーフ」といわれるほどの知名度を誇るため、「持っていないけれど見たことはある」という方もいらっしゃるかもしれません。
量目は、20分の1オンス(1カナダドル)、10分の1オンス(5カナダドル)、4分の1オンス(10カナダドル)、2分の1オンス(20カナダドル)、1オンス(50カナダドル)の5種類。
例外として、1994年銘にのみ15分の1オンス(2カナダドル)が存在します。
カナダ政府が保証する法定通貨(※1)であり、資産向け金貨において、世界初の純金金貨となっています。
(※1)法定通貨とは、額面価格で決済できることが法的に認められている通貨のこと。
デザインと歴史

表面にはイギリスの元女王「エリザベス2世」の横顔、裏面にはカナダを象徴する「サトウカエデの葉(メイプルリーフ)」が描かれています。
「カナダの金貨なのに、イギリスの女王のデザイン?」と不思議に思う方もいるかもしれません。
実はカナダはイギリス連邦加盟国であり、発行開始当時、エリザベス女王が国家元首を務めていたのです。
カナダは1867年に自治領として成立し、1982年のカナダ憲法法により完全な独立を果たしましたが、現在でもイギリスの君主がカナダの君主としての役割を果たしているのです。
エリザベス女王は2022年9月に96歳で崩御されたため、2024年4月後半の発行分からはチャールズ3世国王がデザインされたものが流通しています。
現在、国際的な信頼性と評価が高いメイプルリーフ金貨。それにしても、なぜ、そんなにも信頼されているのでしょうか。
「高度な偽造防止対策」が魅力
メイプルリーフ金貨が人気な理由のひとつとして、高度な偽造防止対策が施されていることが挙げられるでしょう。
高い価値をもつメイプルリーフ金貨は、常に偽造のリスクに晒されています。そのため、カナダ王室造幣局は、長年にわたって偽造防止技術の開発・導入に力を入れているのです。
ここで、3つの偽造防止対策をご紹介します。
まず1つ目の対策として、セキュリティマークがレーザー彫刻されています。
現在発行されている1オンスのメイプルリーフ金貨の裏面には、右下に小さなサトウカエデの葉のマークがレザーで刻まれており、マークの中には年銘を表す2桁の数字が書いてあります。このマークはマイクロ単位で刻まれていることから、偽造するのは非常に困難だといわれています。
上記の対策は、当時のカナダの1ドル硬貨や2ドル硬貨に施されていたものです。それが派生し、2013年銘の1オンスのメイプルリーフ金貨から施されるようになりました。
2つ目の対策として、金貨を認証する技術が組み込まれています。
具体的には、カナダ王室造幣局とEDGYN SASという企業が共同で開発した独自技術「BULLION DNA」が金貨に組み込まれています。
認証の方法としては、専用の認識機でセキュリティマークを撮影し、その写真と造幣局が持つデータベースを照合します。
データベースに登録されていれば真、されていなければ偽と判別されるのです。
BULLION DNAの偽造防止加工により、真贋鑑定の精度が飛躍的に向上したといっても過言ではありません。
2014年銘の1オンスのメイプルリーフ金貨から組み込まれるようになっており、弊社の知る限りでは、ほかの金貨には施されていない対策です。
最後に挙げる3つ目の対策は、2015年銘から導入されたコインの両面に刻まれている放射状のラインです。
このラインは肉眼でもはっきり見えますが、マイクロ単位で刻まれているので偽造するのは困難です。
ご紹介した3つが、メイプルリーフ金貨の大きな偽造防止対策となっています。
偽造防止対策が施されていることが大きな信頼につながるというのは、裏を返せば、それだけ金貨が偽造されやすいともいえます。
世界初のカラー金貨は「メイプルリーフ金貨」
通常の金貨は「金」という素材であるがゆえに金色に輝いています。しかし世の中には金貨の表面に版を印刷することで色付きにしている金貨も存在します。
それこそが「カラー金貨」です。例として、2014年に日本で発行された「天皇陛下半寿記念奉祝カラー金貨」をご紹介しましょう。
この金貨は、日本の継宮明仁天皇陛下の81歳の誕生日を記念して、英連邦クック諸島政府から発行されました。
カラー部分は、鳳凰のまわりにある「日の出」と「松」です。日の出が赤色に、松が緑色に描かれています。
カラー加工されていることで、中心にいる鳳凰がより凛々しく見えます。
天皇陛下半寿記念奉祝カラー金貨
このように現在では記念金貨などでよく見られる『カラー技術』ですが、世界で初めて色がつけられた金貨はメイプルリーフ金貨です。
メイプルリーフ金貨のカラー金貨バージョンは、1999年にカナダ王室造幣局により約1万3000枚発行されました。
こちらはメイプルリーフ金貨誕生から20周年を記念して発行されたもので、発行枚数の少なさや珍しさから希少価値の高い金貨です。
カラーになっている部分は裏面のサトウカエデの葉で、葉が赤紫色で描かれています。
ちなみに、正解初のカラー金貨はメイプルリーフ金貨ですが、銀貨ではすでにカラー加工されたものが存在していました。
正解初のカラー銀貨は、1992年にパラオ共和国で発行された銀貨だといわれています。
当時は硬貨にカラー加工を施すことで、着色した部分が変色する懸念がありました。
しかし、カラー銀貨を保管し続けても懸念されていた品質の低下は確認されず、着色も美しく保たれているのがわかりました。
そこに目をつけて世界で初めて金貨にカラー加工を施したのが、メイプルリーフ金貨だったわけです。
メイプルリーフ金貨にはこのほかにも、ホログラム加工したバージョンや2010年のバンクーバーオリンピックを記念したバージョン、花火が描かれたバージョンなどが存在します。
加えて、2007年には重さ100キログラム、直径53センチメートルの超巨大なメイプルリーフ金貨が公開されました。
気になる価値は、当時で約4億5000万円以上。世界一の巨大金貨として当時ギネスブックにも登録された(現在は抜かれています)巨大金貨で、2012年には日本に初上陸しています。
その様子はテレビで報道されたので、ご存じの方もいるかもしれません。
少し脱線してしまいましたが、金貨にはこういった特殊なデザインや規格が存在します。
そこに魅力を感じ、「実物を自分の目で見たい、集めたい!」と金貨を集め始める人たちがいるのです。このことから、金貨がただの資産ではなく、見て楽しめる資産だということがわかります。
なぜ王座まで上り詰めることができた?
メイプルリーフ金貨は現在、資産向け金貨の王座的な立ち位置にあります。なぜ王座まで上り詰めることができたのかは、資産向け金貨市場の歴史を知るとわかります。
クルーガーランド金貨の節でもお話しした通り、1970年代後半、金の価格の高騰などにより金貨に資産としての価値が見いだされ始めます。
当時カナダ王立造幣局の彫刻部門に所属していたデザイナーのウォルター・オット氏は、「世界で最も純度が高く、最も人気になる金貨を発行すること」という目標を掲げました。
結果、1979年に誕生したのがメイプルリーフ金貨です。
メイプルリーフ金貨は、金の割合が99.9%以上の純金(1982年銘以降は99.99%以上の純金となっています)。
つまり、資産向け金貨の中で初めての純金金貨であることをひとつのセールスポイントとして誕生したのが、メイプルリーフ金貨だったわけです。
メイプルリーフ金貨はその後、1985年ごろから始まったクルーガーランド金貨の輸入規制に乗じて、金貨市場の王座を奪取しました。
ほかの国々もこの成功を見て資産向け金貨を発行し始めますが、メイプルリーフ金貨はそのデザイン性の高さもあり、シェアを大きく奪われることなく、いまだに王座的ポジションにいます。
もしクルーガーランド金貨の輸入規制がなければどうなっていたのか気になるところですが、今ある現実としては、ウォルター・オット氏が描いた目標の通り、メイプルリーフ金貨は人気のある金貨になっています。
コレクション的な人気が高い「カンガルー金貨」

続いてご紹介する資産向け金貨は「カンガルー金貨」です。
パンダ金貨と同様に動物が描かれた地金型金貨で、毎年異なるデザインが発行されていることから収集価値も併せ持ったものとなっています。
この金貨は、西オーストラリア州政府公営のパース造幣局により、1986年から発行され始めました。
量目は20分の1オンス(5豪ドル)、10分の1オンス(15豪ドル)、4分の1オンス(25豪ドル)、2分の1オンス(50豪ドル)、1オンス(100豪ドル)の5種類。
2010年からは、通称「Mini Roo」と呼ばれる0.5グラム(2豪ドル)、直径約11.6mmのボタンサイズの金貨が発行されるようになりました。
ほかにも、特別なサイズのコインが存在します。重量1,000g(約1キログラム)3000豪ドルの大型地金型金貨です。
毎年発行されているこのカンガルー金貨はほかのコインと異なり、デザイン(横向きのレッドカンガルー)が変わることはありません。どの量目も純金金貨です。
ちなみに、2011年には、「100万ドルのカンガルー金貨」が制作されました。
直径80センチメートル、厚さ12センチメートル、重さ1トン超えの金貨で、最大のコインとしてギネス世界記録に認定されました。
こちらも純金金貨なので、金が1グラム9700円だとすれば97億円の価値があることになります。末恐ろしい金額ですよね。
金貨のデザインは、表面にはイギリスの元女王「エリザベス2世」の横顔、裏面には「カンガルー」が描かれています。
メイプルリーフ金貨に引き続きエリザベス2世が登場しているのは、カンガルー金貨の発行開始当初はエリザベス2世がオーストラリアの国家元首を務めていたためです。
現在もイギリス連邦加盟国であるためイギリスと深い関係なのがわかります。
カンガルー金貨は、可愛らしいカンガルーのデザインもあって世界三大金貨と呼ばれるほど人気になりました。
しかし、実は発行開始当初はカンガルーのデザインではなかったため、「カンガルー金貨」と呼ばれていなかったのです。
カンガルー金貨の前身となる「ナゲット金貨」
実は、発行開始当初は自然金塊(ゴールドナゲット)がデザインされていました。そのことから、「ナゲット金貨」と呼ばれています。
ナゲットとは、英語で「金塊」を意味するので、その名の通り金塊が描かれていたわけです。
余談ですが、チキンナゲットという単語の所以は、衣をまとい揚げた鶏肉の色や形状が自然金塊に似ているからだそうです。
実際の金貨を見てみましょう。

年銘や量目によって描かれている金塊のデザインが異なりますが、これら金塊はオーストラリアで発見された名称付き大金塊に由来しています。
左の金塊の下に刻まれている「HAND OF FAITH 1980」。これは、1980年に発見された「HAND OF FAITH」という大金塊をデザインしたものです。
続いて右の金塊には「WELCOME STRANGER 1669」と刻まれています。これも同じく1669年に発行された「WELCOME STRANGER」という大金塊をデザインしたものです。
ちなみに、この金塊は世界一大きい金塊であり、重さはなんと97.14キログラムもあるそうです。
そのようなわけで、1986年から1988年の3年間にかけてはこのナゲットのデザインで発行されていました(実際は1989年銘のナゲット金貨も存在します)。
カンガルーのデザインに変わった理由
しかし、1989年からは次第にカンガルーがデザインされ、名称も「カンガルー金貨」と呼ばれるようになりました。
なぜデザインが変更されたのか。それは、オーストラリアの金生産業が80年ぶりに100トンを超えるという大きな節目を迎えたからです。
その節目にナゲット金貨に新たな関心を呼び寄せ、より希少性を持たせるため、オーストラリアの動物として国際的に認知されているカンガルーを採用することに決定しました。
国章にも取り上げられているカンガルーへ変更することで、世界中のコレクターや投資家にアピールできると踏んだのでしょう。
実際のカンガルー金貨のデザインを見てみましょう。

例えば、カンガルーのデザインに変わった1989年銘は、カンガルーが立っている姿が描かれています(図・左)。
続いて、2000年銘は2匹のカンガルーが横並びになっているデザイン(図・中)、2015年銘は月の昇る草原を疾走するカンガルーが描かれています(図・右)。
このように毎年デザインが変わるカンガルー金貨は、「今年はどんなデザインになるのだろう」と収集家の間でひとつの楽しみになっています。
ちなみに、2007年銘まではカンガルーのデザインの周りに「NUGGET」と刻まれていましたが、2008銘以降は「KANGAROO」と刻まれるようになりました。
そのこともあり、専門店によっては年銘関係なく「ナゲット金貨」と呼んでいたり、「カンガルー金貨」と呼んでいたり、まちまちです。
そんな側面があるのも面白いところといえるでしょう。
なぜナゲットがデザインされた?
そもそも、なぜ最初にナゲットのデザインが採用されたのでしょうか。その理由として、オーストラリアで起こった「ゴールドラッシュ」が挙げられます。
オーストラリアは金や銀などの貴金属が豊富に埋蔵されている国であり、金に関しては西オーストラリアを中心に採掘が行われてきました。
採鉱された金鉱石を製錬し、鋳造した金貨を国内のみならず周辺の大英帝国諸地域へも供給していました。
2021年の金産出量は約1000万オンス(約310トン)。中国に次ぐ世界2位の産出量となっており、過去には「ゴールドラッシュ」が何度も発生しています。
この現象は、新しく金鉱(金の鉱山)が発見された際に、一攫千金を狙う人がその土地に一斉に押しかける現象のことです。
オーストラリアでゴールドラッシュが最初に起こったのは、1851年。
国内の南東部「ニューサウスウェールズ」で、ジョン・リスターとトム兄弟が採算の取れるほどの量の金を発見。
エドワード・ハモンド・ハーグレイヴスがこれを広く宣伝し、ゴールドラッシュが始まりました。
続いてのゴールドラッシュは1885年以降に西オーストラリアで起こったもの。
1885年にチャールズ・ホールとジャック・スラッテリーが「キンバリーゴールドラッシュ」を、1887年にはハリー・フランシス・アンティの一行が「イルガーンのゴールドラッシュ」を引き起こしました。
ゴールドラッシュが何度も起きたことで、1891年に約5万人だった西オーストラリア州の人口は、1895年には倍の約10万人に膨れ上がり、さらに1901年には約18万5000人にも達しています。
このような過去を経て、1986年に資産向け金貨がブームの最中「1986年オーストラリア法」の制定を果たしたオーストラリアが、付加価値を持つ金属商品を開発するプログラムを進行しました。
その折に、ゴールドラッシュを象徴するものとして誕生したのがナゲット金貨だったのです。