あなたの知らない「記念硬貨」の世界
お祝い事などで特別につくられるのが「記念硬貨」です。第3回では、日本の記念硬貨を中心に「記念硬貨とは何か」「どのような種類があるのか」「その価格はどう決まるのか」といった基礎知識を、わかりやすくお伝えしていきます。
記念硬貨は世界中で発行されている!
2019年4月30日、天皇陛下(明仁様)がご退位され、平成は終わりを迎えました。そして翌5月1日、徳仁様が天皇陛下に御即位され、令和の時代が幕を開けました。
実は、この御即位を記念して、特別な貨幣が発行されていることをご存じでしょうか。発行されたのは「1万円金貨」と「500円バイカラー・クラッド貨幣」の2種類。
1万円金貨の表面には縁起がよいとされる「鳳凰と瑞雲」が、500円貨幣の表面には御即位の儀式で使われる台座「高御座(たかみくら)」がデザインされています。
私たちが日常的に使うお金とはまったく違うデザインですが、法的には正式な貨幣です。実際、銀行などで両替することも可能なのです。
このように、国家的なお祝いごとが開催されると、それを記念して特別な貨幣が発行されます。この貨幣は「記念貨幣」と呼ばれ、特に硬貨(コイン)の場合は「記念硬貨」、金貨の場合は「記念金貨」と呼ばれています。
記念硬貨はどのような場面で発行されるのでしょうか。先に日本の例をご紹介しましたが、記念硬貨の発行は日本だけの習慣ではありません。世界各国で、さまざまな記念すべき出来事に合わせて発行されています。
たとえば、「アメリカ建国200年記念硬貨」は、1976年にアメリカが建国200周年を迎えたことを記念して発行されました。また、ヨーロッパで王室を持つ国々では、王室の慶事があるたびに記念硬貨が発行されることが多くあります。
さらに、世界的なイベントが開催される際にも記念硬貨が発行されます。その中でも特筆すべきは「オリンピック記念硬貨」です。
実は、オリンピックのたびに記念硬貨が発行されるようになったきっかけには、日本が大きく関わっています。その興味深いエピソードを、これからお話ししましょう。
日本はオリンピック記念硬貨のパイオニア!?
オリンピックとは、皆さんもご存じのように4年に1度開催される世界最大規模のスポーツの祭典です。現在開催されているのは「近代オリンピック」と呼ばれるもので、その始まりは1896年、ギリシャのアテネでした。
現在では、オリンピックが開催されるたびに、開催国が記念硬貨を発行することが定着しています。最近では2026年2月にイタリアで開催された「ミラノ・コルティナ冬季五輪」でも、イタリア造幣局により大会公式コインが発行されました。
この大会を記念して発行された50ユーロ金貨は、販売価格132万円という高額にもかかわらず、販売開始早々に各取り扱い店で完売となるほどの注目を集めています。
しかし、1896年の第1回大会から記念硬貨が発行されていたわけではありません。世界で初めてオリンピック記念硬貨が発行されたのは、開始から56年後の1952年のことでした。
世界初のオリンピック記念硬貨——ヘルシンキオリンピック
では、なぜオリンピック記念硬貨が発行されるようになったのでしょうか。そのヒントは、記念硬貨発行による「収益」にあります。
世界で初めてオリンピック記念硬貨が発行されたのは、1952年にフィンランドで開催された「ヘルシンキオリンピック」のときです。発行されたのは銀を主成分とする銀貨で、額面は500マルッカ(フィンランドの旧通貨)。表面には「五輪マーク」、裏面には「リースと額面」が描かれています。
世界初のオリンピック記念硬貨と聞くと「貴重な記念硬貨に違いない」と思われるかもしれませんが、実は現在でもネットオークションなどで1,000〜2,000円ほどで手に入ります。その理由は、銀という素材の価値がそれほど高くないことと、58.6万枚という大量発行が行われたためです。
こうして1952年に世界初のオリンピック記念硬貨が誕生しましたが、この時点では「オリンピック開催時に記念硬貨を発行する」という習慣は定着していませんでした。その流れを決定的に変えたのが、日本だったのです。
東京オリンピックが変えた記念硬貨の歴史
オリンピック記念硬貨を世界的な習慣として定着させるきっかけをつくったのは、1964年の「東京オリンピック」です。この大会はアジア初のオリンピックとして歴史に名を刻みました。
開催を記念して発行されたのは「1,000円銀貨」と「100円銀貨」の2種類。1,000円銀貨には「富士山と国花の桜」、100円銀貨には「聖火台と五輪マーク」がデザインされています。

発行枚数は1,000円銀貨が1,500万枚、100円銀貨が8,000万枚で、ヘルシンキオリンピックのときと比べて、実に2桁も多い数字です。
これら銀貨は、当時想像を超える人気を集めました。金融機関の窓口で引き換えられる形式でしたが、引き換え日には長蛇の列ができ、すぐに品切れになったほどです。明治以来となる大型銀貨の発行とあって、銀行や郵便局には早朝から人々が詰めかけ、機動隊が出動する事態にまで発展した場所もありました。
この空前の人気により、記念硬貨の発行は多額の収益を生み出しました。そして、その一部が大会運営費に充てられたのです。この成功例が、その後のオリンピック記念硬貨発行の原動力となりました。
東京オリンピックの成功を受けて、4年後の1968年に開催されたメキシコシティーオリンピックでも記念硬貨が発行されました。以降、大会運営費の調達を主な目的として、オリンピック開催時には記念硬貨を発行することが世界的な慣例となったのです。
ちなみに、オリンピック記念硬貨として世界で初めて記念金貨を発行したのも日本です。1998年に開催された長野オリンピックを記念して、1万円金貨が発行されました。
このようなエピソードから、日本がオリンピック記念硬貨のパイオニア的存在であることがわかります。この事実を知った上で記念硬貨を手に取ると、その背景にある歴史の重みを感じられるのではないでしょうか。
なお、国際的なイベントを記念する硬貨は、オリンピックだけではありません。サッカーのワールドカップ記念硬貨や万国博覧会記念硬貨なども、開催国が発行するのが恒例となっています。
記念硬貨の販売価格は額面通りではない
1万円記念硬貨が1万円で買えない?
記念硬貨がどのようなものかご理解いただけたところで、その販売価格について見ていきましょう。
1964年の東京オリンピック記念硬貨は、金融機関で両替で入手できる形式だったため、額面通りの金額で購入できました。つまり、1,000円銀貨なら1,000円、100円銀貨なら100円です。
そのことから、「1万円金貨なら、1万円で買えるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、実際はそうではないのです。
実際に近年日本で発行された記念硬貨を例に見ていきましょう。
「ぼったくり」とも言われたミャクミャク金貨

ここ最近で日本で開催された国際的なイベントといえば、そう、2025年4月13日から10月13日までの期間に大阪府で開催された「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」です。
この開催を記念して3種類の1,000円銀貨と1種類の1万円金貨が発行されました。
大会公式キャラクター・ミャクミャクが描かれたこの金貨(以下、ミャクミャク金貨)は、事前抽選申し込みによる販売で、定価は26万8,000円、発行枚数は3万枚でした。
「額面としての価値は1万円しかないのに、なんで26万円もするの?」と驚かれるかもしれません。実際、発表当時も「ぼったくり」といった声が一部ネットで話題になっていたほどです。
しかし、この価格設定は決してぼったくりではありません。なぜなら、このミャクミャク金貨は15.6グラムの純金でつくられた特別な貨幣だからです。
申し込み受付が始まった2025年3月6日時点の金相場は、1グラムあたり約1万5,000円でした。つまり、金地金としての価値は約23万4,000円ということになります。
さらに、このミャクミャク金貨は、見る向きや角度によって色が変わって見える『虹色発色加工技術』という特殊な技術を用いてデザインされています。金自体の地金価値と造幣局の最新技術を用いた製造コストを加味すれば、26万8,000円という販売価格は妥当な額と考えられるのです。
このような素材や製造に額面以上のコストがかかっている貨幣をプレミアム型貨幣と呼び、近年発行される金貨や銀貨などの記念硬貨の多くが該当します。金や銀などの素材の価値に加え、デザインや偽造防止などにおいても最新技術を駆使して製造されるため、販売価格も当然高くなるのです。
“高すぎる”と言われた金貨のその後
ところが、このミャクミャク金貨は、ここからが面白いのです。
2025年3月初旬の申し込み受付から商品発送の8月下旬までの間に、世界情勢をはじめとするさまざまな要素が重なり、金相場が急騰しました。
そして、9月には金相場が1グラム1万8,000円台まで高騰。それに伴い、ミャクミャク金貨の地金としての価値も約28万円となり、地金価値だけで定価を上回る価格になってしまったのです。
この値上がりのすごさは当時SNSでも大きく拡散され、話題になりました。
確かに金価格は上昇傾向にあり、金貨を所持していればいずれ価値が上昇していくことは予想できましたが、予約してから手元に届くまでのわずか5ヶ月もの間に、「まさかここまで価値が上がるとは……」と筆者も強く印象に残っています。
そして金相場の上昇はさらに続き、2026年2月現在、この金貨の地金価値は40万円前後を推移しています。
金貨は単なる「記念品」ではなく、世界経済の動きとともに価値が変動する「資産」としての側面も持っているのだと実感した経験でした。
ミャクミャク金貨(2025年日本国際博覧会記念金貨)については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
2026.02.17
ミャクミャク金貨の価値はいくら?価格・重さ・買取相場を徹底解説
2025年に開催された大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク…
金貨とは何か?金貨の種類と品位の考え方
金貨の種類や価値の決まり方を解説する前に、まずは「金貨」とは何かを改めて確認しておきましょう。
金貨とは、その名の通り「金」でつくられた硬貨のことを指します。「表面だけが金メッキで、内部は別の金属なのでは?」とイメージされる方もいますが、本物の金貨は中身までしっかり金でできています。実際に手に取ると、ずっしりとした重みを感じられるのが特徴です。
ただし、一口に金貨といっても、すべてが“100%の金”でできているわけではありません。ここで知っておきたいのが「純度」や「品位」という考え方です。
金貨の種類——すべてが純金というわけではない
前述の通り、金貨のすべてが100%の金でできているわけではありません。
金は非常に柔らかい金属で、純度が高いほど傷つきやすく、変形しやすいという性質があります。そのため、指輪やネックレスなどの金製品では、銅や銀などを混ぜて強度を高め、日常使いに耐えられるように加工されています。
金貨にも同様の考え方があり、純金ではなく、ほかの金属を混ぜてつくられているものも存在します。
たとえば、クルーガーランド金貨や2012年までに発行されたブリタニア金貨は、金の含有量が約91.7%です。買取業界ではこれを「22金」や「K22」と呼びます。
一方で、メイプルリーフ金貨、ウィーン金貨ハーモニー、2013年以降のブリタニア金貨といった主要な投資用金貨(地金型金貨)、さらに日本で発行されている記念金貨の多くは「純金金貨」です。純金金貨とは、99.9%以上の金で構成された硬貨のことです。こちらも22金と同じく「24金」や「K24」と表現することが多いので、こちらの表記のほうがピンと来る方もいるかもしれません。
このように、金(金貨)は24を100%として考える「24分率」という基準で表され、この24分率による表記を「品位(ひんい)」といいます。
たとえば、
・K24=金の割合がほぼ100%
・K18=金の割合が75%
・K12=金の割合が50%
という意味になります。
なお、銀貨などは「1000を100%とする千分率(例:999)」で表されることが多いため、金の24分率は少し独特に感じられるかもしれません。
なぜ金は「24」を基準にしているのか?
なぜ金は「100」や「1000」といった切りのよい数字ではなく、「24」を基準に純度を表すのでしょうか。
その理由は、金が古代から価値ある金属として取引されてきたという長い歴史にあります。金が広く流通していた時代には、まだ「パーセント」という概念が存在していませんでした。つまり、現代のように「100分のいくつ」という方法で純度を示す考え方がなかったのです。
では、なぜ「24」という数字が使われるようになったのでしょうか。
これにはいくつかの説がありますが、よく知られているのが「イナゴ豆説」です。古代ギリシャでは、乾燥させたイナゴ豆(キャロブ豆)の重さがほぼ均一であることから、宝石や金を量る際の基準として用いられていたといわれています。
イナゴ豆24粒分をひとつの単位として金を測っていたことが、やがて純度を示す考え方へとつながったと考えられています。
金の品位を表す「Karat(カラット)」という言葉も、このイナゴ豆に由来するとされており、「K24」や「K18」といった表記の語源になったともいわれています。
また、「1日は24時間」という考え方がそのまま「24」を基準とする考え方につながったという説もあります。
いずれにせよ現代でも変わらず使われているこの基準は、金がいかに長い歴史を持つ存在であるかを物語っています。数字の裏側にある物語を知ると、金という素材がより奥深く感じられますね。
金貨の価値はどのように決まるのか
金貨は素材(金)としての価値を持ち、金の含有量が高いほど価格が高くなります。加えて、発行枚数が少ないほど「現存枚数」に対しての「欲しがる人数」が圧倒的に多くなります。つまり、発行枚数が少ないほど希少性が高くプレミアがつきやすいのです。これも金貨の価格を押し上げる大きな要因となります。
以上のことから、金貨の価値は大きく分けて次の2つに分類できます。
・素材価値
・希少価値
なお、法律によって保証された「額面価値」も存在しますが、市場価格に大きく影響するのは主に上記の2つです。
それぞれについて、もう少し具体的に見ていきましょう。
素材価値とは何か
素材価値とは、その名の通り「金そのものの価値」を指します。
たとえば、2026年2月時点では、金の価格は1グラムあたり約27,000円に達しています。これは貴金属の中でも非常に高い水準です。
参考までに、硬貨によく使われる他の金属の価格を見てみましょう。
・1円硬貨の素材であるアルミニウム:約0.3円/g
・10円硬貨の主な素材である銅:約1.9円/g
・銀:約390円〜500円/g
(いずれも2026年2月19日時点)
これらと比較すると、金の価格がいかに高いかがわかります。
この知識をもとに、2019年に発行された『ラグビーワールドカップ1万円金貨』の素材価値を考えてみましょう。

この金貨は純金15.6グラムでつくられています。申込時期の2019年3月ごろ、金の価格は1グラム約5,000円でした。
したがって、素材としての価値は次のように計算できます。
5,000円×15.6グラム=78,000円
つまり、素材価値は約78,000円となります。額面は1万円ですが、素材としての価値はすでにそれを大きく上回っていることがわかります。
当時の販売価格は12万円でしたので、およそ4万2,000円(12万円-7万8000円)の差があります。この差額には、鋳造コストや販売経費、記念金貨としての収集価値などが含まれています。
(※記念硬貨の販売価格の仕組みについては、下記セクションでも詳しく解説しています。)
そして、忘れてはいけないのが「金」の価格は市場の動きによって日々変動する点です。
仮に、2026年2月現在の金価格(1gあたり約27,000円)で同じ15.6グラムを計算すると、
27,000×15.6g=421,200円
素材価値は約42万1,200円になります。
これは、当時の販売価格12万円を大きく上回る3倍以上の価格です。
このように、金貨の素材価値は金相場の動きに連動して変化します。特に投資目的で発行されている地金型金貨は、金の価格変動の影響を直接受けやすい特徴があります。
希少価値とは何か
金貨を語る上で外せないもう一つの大きな要素が「希少価値」です。希少価値とは、簡単に言えば「欲しい人に対して数が足りない」状態のことです。需要に対して供給が少なければ少ないほど、その品は高く評価されやすくなります。
コレクションの世界では、「現存数が少ないもの」ほど価値が高くなる傾向があります。どれほどデザインが美しく、保存状態が良くても、市場に大量に存在すれば価格は伸びにくいものです。反対に、世界に数千枚、あるいは数百枚しか存在しないような品は、コレクターの強い需要によって価格が押し上げられます。
切手や絵画、カメラ、ゴルフ道具、アーティストの限定グッズなど、何かを集めた経験がある方なら、「なかなか手に入らない」と聞くだけで魅力が増す感覚に心当たりがあるのではないでしょうか。
金貨(硬貨)もまさに同じです。
硬貨の場合はまず始めに「発行枚数」や「残存枚数」を見て、コレクションとしての価値(希少価値)が高いかどうかを判断します。その後、状態の善し悪しなどを確認するといった具合です。
金貨の場合、まず注目されるのが「発行枚数」や「残存枚数」です。これらを確認し、コレクションとしての希少性を判断したうえで、保存状態や人気の高さなどが評価されていきます。
それでは、具体例を通じて、希少価値がどのように価格へ影響するのかを見ていきましょう。
■パンダ金貨の希少価値
希少価値が高い近代金貨の一例として、中国のパンダ金貨をご紹介します。第2回「海外金貨の章」でも軽く触れましたが、特定の年銘・量目のものは発行枚数が限られているため、高値で取引されるケースがあります。
特に1982年から1999年までの初期発行分は注目されやすく、なかでも1982年銘、1995年銘、1998年銘などは発行枚数が少ないことで知られています。
例を挙げると、
・1982年銘 1オンス:約13,500枚
・1995年銘 2分の1オンス:約11,700枚
・1998年銘 10分の1オンス:約8,500枚
・1998年銘 2分の1オンス:約4,200枚
近代金貨の場合は1万枚を切るぐらいで希少性が増すので、それだけ取引価格も高くなります。
先に挙げたうちのひとつである1995年銘の2分の1オンス(約1万1700枚)を例に見てみましょう。
2026年2月時点での金価格は1グラム約27,000円。2分の1オンスは約15.6グラムですから、素材としての価値は次の計算で求められます。
27,000円×15.6グラム=421,200円
約42万円だということがわかります。
しかし、希少性を正しく評価できる専門市場では、この金貨が100万円以上で取引された実績もあります。素材価値を大きく上回る価格がつく理由は、まさに希少価値にあるのです。
画像は当社で過去にお買取した1995年銘の2分の1オンスパンダ金貨です。
■アンティークコインの世界「ウナとライオン金貨」
さらに希少価値の影響が顕著に表れるのが「アンティークコイン」の世界です。
アンティークコインとは、おおむね100年以上前に発行された古い硬貨のことを指します。古い硬貨で発行枚数が少ない場合は、残存枚数が限られてきます。よって銘柄によっては入手が困難であるために、ぐっと取引価格が上がります。
アンティークコインの代表例として、イギリスで発行された、1839年銘のウナとライオン金貨(プルーフ金貨)をご紹介しましょう。コイン業界では非常に有名な存在で、その芸術性から「世界一美しい金貨」と称されることもあります。
発行枚数は1839年銘のプルーフ金貨の場合、たった400枚。先のパンダ金貨の話からすると、かなりの高額になりそうな予感がしますよね。
まずは素材としての価値を見てみましょう。この金貨の量目は39.94グラムで、このうち約91.7%が金からできています。2026年2月時点での金の価格(1グラム約27,000円)で素材価値を計算すると、
27,000円×39.94グラム×91.7%=約98万8,874円
計算結果は約98.8万円。金貨自体の重量が大きいため、素材価値だけを見ても相当な金額になることがわかります。では、実際の市場ではいくらで取引されているのでしょうか。
アンティークコインは、とりわけ保存状態によって価格が大きく変動します。そのため、一概に「いくら」と断言するのは難しいのですが、2021年8月の落札事例としてこんなものがありました。
「1839年銘 ウナとライオン金貨 PF66(世界最高鑑定品) 約1億5840万円で落札」
なんと、素材としての価値が約98.8万円であるのに対し、実際の落札価格はその何十倍にも達しています。つまり、この価格の大半は金そのものの価値ではなく、圧倒的な希少性や歴史的・芸術的評価によって生み出されたものだということです。
もちろん、これはあくまで一例であり、すべてのアンティークコインが同じような価格になるわけではありません。しかし、硬貨の世界では、希少価値が極めて高い場合、素材価値をはるかに超える金額で取引されるケースがあるのも事実です。
これこそが、硬貨における希少価値の持つ大きな影響力です。そして「金」という素材そのものではなく、「金貨」という存在だからこそ、こうしたロマンともいえる価値が生まれるのです。
額面価値という安心材料
最後に、忘れてはならないのが「額面価値」です。
日本で発行されている記念金貨は、法律に基づいて発行されており、その額面は国によって保証されています。たとえば、額面1万円の金貨であれば、日本国内において1万円の通貨として通用します。
実際に1万円として使用する人はほとんどいませんが、「国がその価値を認めている」という事実は、大きな安心材料になるでしょう。
とはいえ、「その保証は誰がしているのか」「将来にわたって本当に保証されるのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。
結論からいえば、日本の記念硬貨は、日本の通貨に関する法律によって価値が保証されています。つまり、その裏付けとなっているのは日本という国家です。
また、現代の日本の貨幣においては、法改正などにより特定の貨幣の額面が保証されなくなったという事例はありません。そのことから、「未来永劫保証される」とまでは言い切れないものの、そう簡単に保証されなくなることはないと考えられます。
せっかくですので、ここで日本の記念硬貨に関する法律の歴史を軽く振り返ってみましょう。
■日本の記念硬貨と法律の歴史
日本で最初に記念硬貨が発行されたのは、1964年の東京オリンピックの際に発行された1,000円銀貨です。これが日本初の記念硬貨でした。
当時の法律では、1円・5円・10円・50円・100円の5種類のみが正式な貨幣として定められていました。そのため、1000円の硬貨を発行するには、新たに法律をつくる必要があったのです。
こうして1964年4月20日に「オリンピック東京大会記念のための千円の臨時補助貨幣の発行に関する法律」が制定され、1,000円銀貨が誕生しました。
次に同様の措置が取られたのが、1986年の「天皇陛下御在位60年記念10万円金貨」の発行時です。このときも10万円という高額面の硬貨を発行するため、専用の法律が新たに制定されました。
ここまでの経緯を見ると、「記念硬貨を発行するたびに法律をつくるのか」と感じる方もいるでしょう。実際、そのような意見が高まったことを受けて、1987年に従来の貨幣法は廃止されました。そして、新たに「通貨の単位及び貨幣の発行に関する法律」が制定されたのです。そして、2023年現在もこの法律が適用されています。
■日本貨幣の特殊な額面は「5万円」と「10万円」

歴史を振り返ったところで、実際の法律を見てみましょう。
現在、日本の記念硬貨は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第5条によって定められています。この条文では、額面1万円以下の記念硬貨が保証の対象とされています。
現在発行されている記念硬貨の多くは1万円以下の額面であるため、基本的にはこの法律によってカバーされています。
しかし、例外的にこの法律の範囲外となる記念金貨が3種類存在します。
・皇太子殿下御成婚記念5万円金貨
・天皇陛下御在位60年記念10万円金貨
・天皇陛下御即位記念10万円金貨
これらは、発行当時に制定された個別の法律によって価値が保証されています。
たとえば、皇太子殿下御成婚記念5万円金貨は、「皇太子徳仁親王の婚姻を記念するための五万円の貨幣の発行に関する法律」に基づいて保証されています。
金貨が持つ3つの価値
ここまで見てきたように、金貨には三つの価値があります。
・金そのものの価値である「素材価値」
・発行枚数や人気によって左右される「希少価値」
・国によって保証される「額面価値」
同じ重さの金であっても、金貨という形になることで希少価値が加わり、市場価格が大きく変わることがあります。さらに、法律による額面保証という安心材料も備わっています。
この三つの側面が重なり合うことで、金貨は単なる「金」以上の存在となります。そこにこそ、金貨ならではの奥深さと魅力があるのです。