ヘルヴェティア共和国建国200周年記念硬貨 スイスの独特な政治体制に迫る
スイスの世界的に見ても特異な政治体制と言えば、地方自治が強い点が挙げられます。
もちろん、アメリカやドイツのように連邦制を導入している国はいくつか存在します。しかし、それらと比較しても圧倒的にスイスは地方自治体の権力が強い国です。
そんなスイスが歴史上、唯一中央集権国となった時代があります。
その国の名前は、ヘルヴェティア共和国。このコインは、スイスの時代の移り変わりを象徴するとともに、スイスの地方自治への強い思いを感じられるものです。
基本情報
発行国 | スイス連邦 |
発行年 | 1998年 |
素材 | 金(K21.6) |
額面 | 100スイスフラン |
重量・直径 | 22.58g / 27.8mm |
図案(表) | 25個のスイス十字が5×5の格子状に配置 |
図案(裏) | 1798年発行のヘルヴェティア共和国のデザインをレリーフとして再現 |
スイスは州の連合で成立している国です。表面の規則的に配列されたデザインは、国家の統一と団結を象徴する、シンプルながらも力強さを感じるビジュアルと言えるでしょう。
また、表面の「HELVETIA」の刻印は、国内に4つの公用語を持つスイスが、特定の公用語を用いることができない時に自国を指す名称です。
裏面のデザインは、発行当時のコインデザインの再現であり、スイスの象徴ともいえるヘルヴェティアが盾とともに座しています。
変わりゆく時代の中で
もともと、政治も言語も通貨も別々の自治領の連合であったスイスは、現在でも中央政府が弱く、州ごとの権限が非常に強いという世界的に特異な政治体制となっています。
そんなスイスがただ一度だけ、中央集権国家となったヘルヴェティア共和国とは、どのような国なのか、まずはその歴史を探っていきましょう。
啓蒙思想とヨーロッパ情勢の変化
スイスの歴史を遡ると、元は中世に神聖ローマ帝国と戦った自治州(カントン)の連合、俗に言う「盟約者同盟」に端を発します。
複雑な歴史のある各自治州が帝国打倒のためだけに連合したため、「スイス」という国家としてのまとまりが弱い状態が18世紀ごろまで続いていました。
そんなスイスの状況を一変させたのがモンテスキューやルソーなどが論じた啓蒙思想です。
国家の主権や政治のあり方を論じた啓蒙思想は、やがて隣国のフランス革命、そして、革命戦争という大きなうねりとなってスイスを飲み込んで行きました。
革命戦争の最中である1798年、フランス革命軍はスイスに侵攻、親仏派・親革命政府派の州を中心にヘルヴェティア共和国を建国、単一の中央集権国家を作るべく奔走します。
自治を取り戻す
このようにして生まれたヘルヴェティア共和国では、旧来の各州ごとの自治権を廃止し、フランスを模範にした単一の強力な中央集権国家を設立することを目指していました。
しかし、反仏派や保守勢力の強い州の猛反対にあい、各地で内乱や抵抗運動が頻発。また、共和国自体も政情不安や財政面での問題により、次第に機能不全に陥っていきます。
加えて、最大の支援国であるはずのフランスもまた、イギリス、ロシア、スウェーデンなどの列強との対立、国内での政変から積極的な支援を行えていませんでした。
結局、1803年にナポレオンの仲裁により連邦制が復活、一部の領域が自治州に昇格するなど現代スイスへとつながる国の形が完成することとなります。
中央集権の功罪とスイスの地方自治
ここまでヘルヴェティア共和国の概要を記しましたが、この経緯を見れば共和国は失敗とも捉えられるでしょう。民衆の反発にあい、5年で崩壊したとなれば当然の評価です。
もちろん、スイス国内においても連綿と続く地方自治の体制を強引に変えようとした、ヘルヴェティア共和国は好意的に語られるものではありません。
しかし、それならば、なぜ、そのような国の建国を祝っているのでしょうか。
スイスの特異な地方自治制度
歴史的な国家の成り立ちからアメリカやドイツのように連邦制を採用し、各州の権限が強い国はスイス以外にも存在しており、決して珍しい国家体制ではありません。
しかし、20世紀以降の中央政府で行うべき行政内容の拡大や経済圏の拡大によって、どうしても中央集権化を進めざるをえない実情がありました。
その流れにあってなお、現在でもスイスは構成している26州、それぞれに独自に法律、議会、政府、裁判所を所持しており、自治権が強い国家です。
また、国民投票や国民発議など、市民が政策決定に直接関わる制度が発展しており、このような制度を持っていることは、世界的に見ても特異な国家と言えるでしょう。
地方自治と中央集権の難しいバランス
スイスの地方自治権の強さは、時として羨ましいものであることは間違いないでしょう。
その土地の実情にあった行政サービスの提供や多様性の尊重など、各州で言語も文化もバラバラであるスイスにとっては、非常に理にも利にも適った制度です。
ただ、同時に地域格差の固定化や行政サービスの不公平さなどを生む要因にもなるため、決して自治権の強さは手放しで褒められることではありません。
反発の大きかったヘルヴェティア共和国ですが、中央集権化と同時に近代的な国家制度や法の統一、封建制の廃止などの改革を実施したことも事実です。
スイスが近代化に至るなかで、民主主義と国家統一の過程を振り返るためにも忘れてはならないのが、ヘルヴェティア共和国という存在なのかもしれません。
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1798年のヘルヴェティア共和国成立から200年を記念して発行されたこの金貨は、スイスの近代化の幕開けを象徴する貴重な一枚です。
中央集権化と自治のせめぎ合いという歴史の転換点を刻むこの金貨は、単なる貴金属としての価値にとどまらず、コレクター心をくすぐる歴史的背景を持っています。
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