スイスフラン金貨の価値とは? スイスの理想的な女性像に迫る
肖像画が刻まれた貨幣というのは、日本ではあまりなじみがありません。しかし、世界的に見ると一般的であり、多くの国が肖像画が刻まれたコインを流通させています。
そんな硬貨の肖像画に選ばれる人物は、その国の国民的英雄であったり、文化や経済の発展に多大な影響を及ぼした人物ばかりです。
では、スイスフランというと、そこに描かれているのは2人の女性です。この女性は一体誰なのでしょうか。
スイス 1935年 20フラン金貨(ブレネリ)
| 発行国 | スイス |
| 発行年 | 1935年(実際には1955年などに再鋳造された「L1935B」も多い) |
| 素材 | 金(Au 0.900) |
| 額面 | 20フラン |
| 重量・直径 | 6.45 g / 21 mm |
| 図案(表) | ブレネリとアルプス山脈 |
| 図案(裏) | スイスの国章(十字と盾)と周囲にオークの枝 |
肖像画のうち1人は、「ブレネリ」と親しまれるスイスの理想化された女性像です。ブレネリはスイス人に多い「フレニ」という女性の愛称に由来しており、言ってしまえば、スイスの一般的な女性を表していると考えることもできます。
アルプスの雄大な自然とともに生きる可愛らしい少女の顔は、スイス人が思い描く理想の女性像なのかもしれません。
スイス 1892年 20フラン金貨(ヘルヴェティア)
| 発行国 | スイス |
| 発行年 | 1883~1896年(1892年も含む) |
| 素材 | 金(Au 0.900) |
| 額面 | 20フラン |
| 重量・直径 | 6.45 g / 21 mm |
| 図案(表) | ヘルヴェティアとアルプス山脈 |
| 図案(裏) | スイスの国章(盾に十字)と周囲に花(エーデルワイス)や枝 |
もう一人、ブレネリに比べると大人びた印象のある人物は「ヘルヴェティア」です。こちらは、古代ローマからのスイスのラテン名「Helvetia」にちなんだ女性像であり、スイスそのものと言ってよいでしょう。
時に、槍と盾を持ち戦う姿勢を見せる勇ましい戦乙女の姿は、現代のスイスの国体に通じるところがあります。
スイスの女性像 ~ブルネリとヘルヴェティア~
金貨に刻まれた2人の女性像は、スイス人が理想とする女性の姿そのものです。特に、ヘルヴェティアの名前は、スイスのラテン語名である「Confoederatio Helvetica」の由来にもなっているほか、硬貨にも名前を見ることができます。
この2人は、スイスの歴史的ルーツと、中立・平和・自然との調和を愛する国民性を表現したとされており、スイスの文化そのものと言っても過言ではないでしょう。では、その2人はどのような人物なのか。スイスの歴史を紐解きつつ探っていきましょう。
自由を求めた戦乙女 ~ヘルヴェティア~
ヘルヴェティアの名前はケルト系のヘルウェティイ族に由来します。紀元前1世紀頃、このへルウェティイ族はローマ帝国と果敢に戦いますが、結果的には敗北し、大勢が奴隷になっただけではなく、定住していたスイスの土地もローマ帝国の属州になりました。
ローマ帝国滅亡後もゲルマン人やフランク人など支配者が入れ替わり続けます。最終的にスイスはハプスブルク家の支配を打ち破り、1648年のヴェストファーレン条約によって独立を勝ち取りました。
このときのスイス人にとって、大帝国と戦ったへルウェティイ族は何か通じるものがあったのかもしれません。その後、ナポレオン戦争やウィーン条約などを経て、スイスが国家として纏まっていくなか、ヘルヴェティアの姿は急速に広まっていきます。
特に19世紀以降は、硬貨・切手・公式な彫像などで繰り返し登場しており、硬貨以外にも文学や建築物などで、鎧を纏い槍や盾を持った勇ましい姿を見ることができます。まさにヘルヴェティアは、スイスの団結・自由・中立を象徴する存在であり、スイスという国そのものと言ってよいでしょう。
自然とともに生きる少女 ~ブレネリ~
1895年にスイスが20フラン金貨のデザインを刷新したとき、国花であるエーデルワイスとアルプスの風景を背景にした「少女の横顔」が採用されました。
この少女の可憐な姿は、瞬く間にスイス人の心を捉え、いつしか「ブレネリ」という愛称で呼ばれるようになりました。
この「ブレネリ」という名前は、元はスイス民謡の「Säg Vreneli」が由来です。民謡に歌われるブレネリはスイスの湖のほとりに住む羊飼いの少女であり、オオカミにおびえながらも羊たちと楽しく暮らしていると歌われています。
民謡に歌われる牧歌的な姿と、金貨に描かれた少女の横顔が結びつき、いつしかスイスの理想的な少女像としての「ブレネリ」が完成したと言われています。ヘルヴェティアがスイスの戦う姿の象徴ならば、ブレネリはスイスの自然を愛する国民性の象徴と言えるでしょう。
国家の「女性像」のルーツとは?
女性像のルーツは「擬人化」にあった
社会的な概念を擬人化することは、見た人に共通するイメージを持たせることができるため、美術や政治などさまざまな分野で伝統的に用いられてきた手法です。
そのなかでも、「国家」は、国民を守る「母」や「女神」として、古代ギリシャの時代から位置づけられてきました。現在でも、国名を女性代名詞として扱う言語が珍しくないことにも、その影響は少なからずあるでしょう。
特に、国家という存在が明確になった19世紀以降は、ヨーロッパのみならず日本やアメリカ以外にも南米諸国でも続々と誕生し、その国の象徴として国民に広まっていきました。
各国の女性像とは?
ここでは、いくつかの女性像を紹介しましょう。
| 名前 | 国名 | 特徴 |
| マリアンヌ(Marianne) | フランス | フリジア帽をかぶった女性。フランス革命の自由の象徴。ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』で有名 |
| ブリタニア(Britannia) | イギリス | 元は「ブリテン島」に由来。ローマ帝国の貨幣にも登場。盾と三叉、兜をかぶった姿で登場 |
| イタリア・トゥリッタ(Italia Turrita) | イタリア | ローマ帝国が成立してから盛んに登場。城壁冠を被った女性。現在でも市民権の象徴であり、イタリアの守護女神 |
| ゲルマニア(Germania) | ドイツ | 19世紀のロマン主義時代に登場。ドイツの国旗を纏う女性。1848年のドイツ革命の象徴 |
| スオミネイト(Suomi-neito) | フィンランド | 20世紀初頭に登場。民族衣装をまとった金髪碧眼の美女。現在のフィンランドの国の形が人間に見える。身体の部分で示されることも |
| コロンビア(Columbia) | アメリカ | 元はアメリカの古名。コロンブスに由来。オウムやワニとともに登場する |
ここに挙げたのは、いくつかの例であり、これ以外の国にも国の擬人化である国家の女性像は数多く存在します。
守護女神であったり革命のときの女性戦士であったりと、その由来はさまざまですが、総じて「戦う女性」であることが特徴です。
また、これだけ多くの女性像が登場したことで、19世紀末ごろの風刺画では彼女たちが仲良く描かれたり、逆に争い合う姿が描かれたりもしています。
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