スイス射撃祭記念硬貨について解説
どこの国にも「お家芸」と呼ばれるスポーツ競技があります。
たとえば、日本なら柔道やフィギュアスケート、アメリカなら野球とフットボールというように、国民が一丸となって熱狂するスポーツが必ず存在します。
そして、スイスのお家芸といえば「射撃」です。
今回紹介する射撃祭記念硬貨は、スイスが誇る射撃祭の開催を記念して発行されたスイスの文化と歴史の象徴ともいえる硬貨です。
基本情報
発行国 | スイス |
発行年 | 主要には1855年のソロトゥルン大会以降に発行 以後、開催を記して定期的に発行 |
素材 | 金90% |
額面 | 20フラン金貨として発行された例が多い(通常の流通金貨と同等) |
重量 | 約6.45g、直径21mm前後 基本的な規格は「ラテン通貨同盟」の20フラン金貨に準拠 |
図案(表) | 大会ごとに異なる 女神像・射撃の象徴・都市紋章などが描かれることが一般的 |
図案(裏) | スイス十字やカントンの紋章 |
1855年にスイス北西部のソロトゥルンで開催されたことをきっかけに、スイスでは射撃の腕前を競う競技祭が定期的に開かれるようになりました。
時代を経るにつれ、国民全員が熱狂するほどの一大イベントへと成長した射撃祭は、開催のたびに記念硬貨が発行されています。
しかし、通常のスイスの貨幣に比べて格段に希少である上に、デザインが一枚ごとに異なることからコレクターの間では高値で取引されている貨幣です。
射撃ってどんなスポーツ?
2024年のパリオリンピックで活躍した「無課金おじさん」ことトルコのユスフ・ディケチ選手らの影響もあり、日本でも射撃競技の認知度は高まってきています。
しかし、まだまだその実態を知らない人の方が多いのではないでしょうか。まずは、射撃競技とはどんなスポーツなのかについて解説していきます。
集中力と精密性の激突
射撃は名前の通り、ライフルやピストルを用いて標的を撃ち、得点を競うスポーツの総称です。
国際射撃スポーツ連盟が統括しており、世界大会のルールはここに準じます。
使う銃器や射撃姿勢などからいくつかの種目に分かれますが、基本的に採点は的の中心に近いほど高得点となり、その合計点数で勝敗を決するというのが、おおまかなルールです。
そんな射撃競技で要求されるのは、何をおいても集中力と射撃の精密性です。
射撃競技の的は、最小のものだと45mmしかなく、最大得点となる中心は0.5mmとボールペンの先ほどの大きさしかありません。
それを10m以上離れた場所から狙うという、機械に匹敵するほどの精密な射撃能力が求められます。
特に電子標的を使う場合は0.1点単位で記録されるほど精密です。
また、遠くから的を狙うため、わずかな手のブレさえも許されません。
精密なだけではなく、緊張を跳ね除けるだけの研ぎ澄まされた集中力も必要とされるスポーツです。
生涯スポーツとしての魅力
集中力・精神力が試される射撃は、性別や世代を問わず幅広い層が活躍しています。
オリンピックだけに絞っても、前述の「無課金おじさん」ことユスフ・ディケチ選手は51歳、1920年のアントワープ五輪銀メダリストのオスカー・スヴァーン選手に至っては72歳と2025年現在でも最年長メダリストとして、その記録を保持しています。
年をとってもはじめられる、続けられる生涯スポーツである点は大きな魅力であり、現在の競技人口は世界全体で数百万人規模ともいわれます。
特にスイスやドイツなどでは、それぞれの街に射撃クラブが伝統的に存在しており、地域の若者からお年寄りまでクラブ活動として射撃に親しむ姿は珍しくありません。
では、日本ではというと日本という国のお国柄、競技用の銃を所持するためには厳しい審査・講習を受けなければならず、取得後も更新が必要です。
この競技参加への高いハードルから、他国と比べると競技人口は少なく、警察・自衛隊出身者を除けば約1万人程度の競技人口しかありません。
それでも、1964年の東京五輪以来、毎回オリンピックには日本選手が出場しており、世界の選手たちと鎬を削っています。
スイスの射撃祭を記念して
射撃のこともわかったところで、スイスの射撃祭の話に戻りましょう。
200年近い歴史のあるスイスの射撃祭は、単なる「スポーツ」としての射撃の腕前を競う場に留まりません。
もっと深く、スイスの歴史と文化に絡む重要なお祭りと言っても過言ではありません。その概要や歴史について解説していきましょう。
スイスの射撃祭とは?
そもそも、中世以来スイスでは「自分たちの土地は自分たちで守る」という考えが強く、国家の常備軍や傭兵に頼らず、市民が武器を持ち防衛に当たる「民兵制度」が発達しました。
その民兵制度の延長として、各地で射撃の腕前を競う催しが行われ、それが発展して「射撃祭」として成立したとされています。
そのため、単なるスポーツ競技ではなく、射撃を通じて、スイス国民の「武装民兵としての誇り」を確認するという意味合いが非常に強い祭りとなっています。
もちろん、国を挙げての祭りである以上、競技以外の面でも非常に見どころは豊富です。
開会式・閉会式では、伝統的な民族衣装に身を包んだ人々によるパレードが執り行われるほか、音楽や祝典なども伴った大規模な祭りとなっています。
射撃祭開催の歴史
記録によると、スイスが神聖ローマ帝国から独立を果たし、各地の戦争へと傭兵を派遣しはじめた15世紀ごろには、その原型となる祭りが地域ごとに行われていたとされています。
15世紀の戦場の主役は長槍でしたが、徐々に都市や州ごとに銃が整備されるようになると、多くの国民が銃火器を手にし、祭りの主役も槍から銃へと変化したようです。
さらに16世紀に入ると、宗教対立に領土問題、継承問題と多様な理由で戦争が続発します。
これらの戦争にスイスは「傭兵大国」としてヨーロッパ各地に兵を送り出しました。
もともと、アルプスの山がちな地形で農作物が育ちにくいスイスにとって、傭兵産業は重要な外貨の獲得手段です。
そのような背景もあり射撃の腕前を磨く場として発展しました。
時代が下り、19世紀に入るとスイスは連邦国家としてまとまっていきます。
その過程で各州で実施されていたものが統合され、全国規模の射撃祭になりました。
1847年の第1回のソロトゥルン大会以後、射撃祭は数年に1度、スイス各地の持ち回りで開催されており、最近では2021年に中部のルツェルンで開催されています。
現代の射撃祭
射撃祭は、現在では数万人規模の射撃愛好家が全国から集まる大イベントです。
大会内の種目は、オリンピックにもあるライフル競技やピストル競技のほか、伝統的な火器を扱う競技も存在し、民兵制度の伝統を受け継いだ射撃の腕前を競う大会となっています。
その参加人数は、3万人とも4万人とも言われており、アマチュアからプロまでスイス全土から射撃クラブが一堂に集結するという、世界でも類を見ないほどの巨大な大会です。
また、地域文化の祭典としての色合いも強く、大会開催地となった都市では開催期間中に、パレードや屋台なども出店され、開催期間中の観光客は30万人以上とされています。
そして、何よりも1つのスポーツに全国民が熱狂する姿は、団結の具現化といってよいでしょう。
もともと、射撃祭は内戦直後にはじまっており、国家としてまとまっていく何かが求められていた時代です。
長い月日を経て、射撃祭は国民の団結、そして、武装市民の伝統を体現する大会として開催が続いています。
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スイス射撃祭は、スイス国民の伝統と国家の団結を象徴する一大行事であり、その歴史を刻んだ記念硬貨は、コレクターにとって特別な価値を持ちます。
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