チリ・ペソ金貨について解説
19世紀初頭は南米の国々が次々と独立を果たした時期です。
その後の各国の状況は紆余曲折をたどりますが、独立を果たした国のなかでも際立って安定した国家運営をし、経済発展を遂げたのがアルゼンチンとチリでした。
ペソ金貨は、そんなチリの経済発展を見届けた、いわば歴史の証人ともいえる貨幣です。
基本情報
発行国 | チリ |
発行年 | 1932年から1980年まで発行 |
素材 | 金90% |
額面 | 100ペソが有名 |
重量 | 約20.34g / 直径:約31mm |
図案(表) | チリの女性像(女神)の左胸像 |
図案(裏) | チリの国章 中央に星のマークを刻む盾 南米固有のシカ科の動物ウェムルとコンドル 上部には3羽のダチョウの羽 |
ペソ金貨の一部には「S」のマークが刻印されています。これはチリの首都であるサンティアゴ造幣局(Santiago Mint)で鋳造されたものを示す刻印です。
安定した経済から「南米の優等生」とも称されたチリが発行した100ペソ金貨は、その純度から世界恐慌の直後も国内外における決済通貨として重宝されました。
大混乱の時代を駆け抜けた歴史的背景と、ラテンアメリカらしい美しいデザインから、コインコレクターのみならず、投資家にとって魅力的なアイテムです。
チリの歴史を語る者
かつて植民地支配を受けていたチリにとって、ペソ金貨は単なる通貨に留まりません。
スペインからの完全なる独立、国家としての成長、発展した経済、そして、国民の誇りを象徴する歴史的アイテムとも称するべき金貨です。
チリのペソ金貨、その発行までの経緯とその後の流れを追いかけていきましょう。
独立と独自通貨の発行
19世紀初頭、南米諸国は大きな転換点を迎えることとなります。
ヨーロッパで相次いだ革命による王政の打破、そして、新興国アメリカの建国はスペインとポルトガルの支配下にあった南米諸国の独立の気運を一気に高めました。
また、宗主国であるスペインがナポレオン戦争で揺らいだことも追い風でした。
1810年のアルゼンチンの独立を皮切りに、パラグアイやベネズエラなどの南米諸国が続々と独立を宣言。チリもまた1818年に独立を宣言して、スペインの支配を脱します。
しかし、それでいきなり独自の通貨発行とはなりません。不安定な国内情勢を鑑みて、しばらくは、レアルを使用する時期が続きました。
30年ほどの年月の後、かつて植民地時代の造幣局であったラ・モネダ宮殿を大統領官邸に改修、そして1851年、念願の独自通貨であるペソが導入されました。
金本位制度の終焉と記念通貨への転換
こうして発行がはじまったチリのペソは、1ペソ = 8レアルを基本レートとして、急速に世界へ受け入れられていくこととなります。
元々、チリは鉱山資源が豊富な国です。なかでも農業肥料や火薬の原料として世界的に高い需要のあった硝石は飛ぶように売れ、国家収入の大半を占めました。
また、金本位制の導入も、ペソが急速に受け入れられた理由の1つです。豊富な金資源を背景にした金本位制度の導入は、チリを一気に「優等生」の地位へ引き上げました。
しかし、その後の世界的な金本位制度の廃止、ハーバー・ボッシュ法による硝石需要の低迷は、チリという国の姿を一変させるには十分すぎる衝撃でした。
20世紀前半には、かつて「南米の優等生」と呼ばれたころの面影はなく、政治経済の停滞と混乱が相次ぐ国となっていました。
そのような時代であってもペソ金貨は、金貨は高額決済用の通貨として発行が続いていましたが、1970年代には再び経済混乱やインフレーションに直面します。
結局、1980年を最後に100ペソ金貨の発行は終了し、以後は記念・投資用に用途を変えることとなりました。
ペソ金貨のアレゴリー
アレゴリーとは、寓意的女性像のことを意味します。
貨幣は国家の理念を象徴する場でもあるため、世界にはアレゴリーを刻んだ通貨は珍しくありません。ペソ金貨に刻まれた女性もまた、チリの理想的な女性像を示したものです。
では、ペソ金貨に刻まれた刻印は、何を表しているのでしょうか。
ペソ金貨が示すものとは
チリのペソ金貨に描かれた女性像は、誇り高い顔立ちに実に落ち着いた表情をしています。これはチリの共和国としての自信を体現したものと言われており、チリの政治体制が成熟していくように、発行期間の間に幾度となくマイナーチェンジを繰り返しました。
また、髪型や衣装はラテンアメリカとは異なり、古代ギリシャ・ローマ風を意識したもので、古典的理想美を通じて自由と独立の理念を表現しています。
その姿勢は「植民地支配を脱し、自分たちの国を築いた」という歴史的事実を象徴し、国章と組み合わせることで国家の統一と繁栄を示すものとなっています。
実は、こうしたデザインはチリに限らず、同時期に独立を果たしたペルーやアルゼンチンの貨幣にも共通して見られる特徴です。
これらは、19世紀のラテンアメリカ諸国が独立の象徴として「自由と共和国の女神像」を採用した潮流の一環であると言えるでしょう。
動物が示す寓意
ペソ金貨の裏面に刻まれた動物や装飾もまた、チリの理念を寓意的に表したものです。
まず、コンドルは空を自由に舞う姿から「自由・力・守護」の象徴とされ、国家を支える強靭さを示します。同様に、フェムルは自然の豊かさと国土の独自性を体現する存在です。
この2種は、チリ国内で比較的よく見られる動物であり、そのような動物を採用するところに自国の自然環境を伝える意図が感じ取れます。
そして、図案に見られるダチョウの羽根飾りは、軍服や儀礼服に用いられた装飾がモチーフです。これは栄光と威厳、そして国家の誇りを表す要素として加えられました。
こうして自然と象徴が融合した図案は、チリの国章を通じて「自由・繁栄・誇り」の理念を国際社会に発信する役割を十二分に果たしました。
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チリの歴史や独立の精神を象徴するペソ金貨は、アレゴリーや動物を通して国の誇りを表現した貴重な文化遺産です。
その価値は単なる貴金属としてだけでなく、時代背景やデザインの意義にまで及びます。
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